長谷川登鯉さんインタビュー(前編)
42GAMESの田原です。
2018年ゲームマーケット春の翌日、日本のボードゲーム界にてアートで強い個性と才能を発揮されている長谷川登鯉さんにお話を聞かせていただく事が出来ました。ボードゲームについてのよくある質問や、アートワークから見たボードゲームについて、またゲームの創作過程を時系列にてお話を聞くことが出来、参考になること、興味深い事、納得してしまうことが凄くありましたので、こちらで共有させていただきます。ゲーム制作を初めたばかりの方や「ゲームのルールはともかく、アートをどうしようか」と考えている方のご参考になれば幸いです。
アートを初めたきっかけは何ですか?
今も一緒にやってるさとーとしきさんがmixiのボードゲームコミュニティで、新作のゲームのイラスト描ける人を募集していて、応募したんです。元々ボードゲームのアートをやってみたかったんですけど、どうやってるのか全然わからなくて、たまたま見つけたので「こうゆう絵を描きます」って連絡して、で「採用」って(笑)たまたまさとーさんの家と僕の家が歩いて3分くらいの所にあって、たぶんさとーさんも話とかテストプレイとかが楽だと思ったんでしょうね。本当に近いんです。駅に行ったら偶然会ったりとか、コンビニで偶然会ったりとか。
ゲーム制作者はモテますか?(しょうもない質問で恐縮です!こんな発言を見たもので)
どうなんですかね?(笑)別に…と言うか、もう結婚してるから興味が無い(笑)でも友達は増えましたね!今回もですけど。いろんな感覚で作ってらっしゃる方がいると思うんですけど、似た感じで作ってらっしゃる方と情報交換したりするのは楽しいです。
丁度先日のゲームマーケットで出したオネズミ算は僕の方からルールを依頼してるんですよ。いつもはアートを頼まれて描いてますけど、その逆をやってみたんです。オネズミ算の作者の与儀さんは、77spieleっていうサークルさんで、僕がゲームマーケットに参加した頃から制作されている方です。彼はとても自分の中のハードルが高くて、納得しないとゲームを出してくれないので数が少ない。それこそ数年に1回くらいしか出してこないのかな?なので、今のゲームマーケットではそんなに知られてないですけど、確実な面白いゲームを作るサークルさんですよ。1作前の「木馬と英雄」で依頼していただいたのが縁で、今回は僕の方から「簡単なセットコレクションのゲームを作ってください♪」みたいな軽い感じでルールを依頼して、アートは自分で描く。っていう作り方をしました。そうゆう繋がりはできました。モテるかは知りません(笑)
作ってよかったと思うのはどんな時ですか?
丁度さっきもありましたけど(※インタビュー前に丁度8bitMockUpを遊んでいる人を偶然見かけました)知らない人が遊んでるの見ると「よかった」って思いますね。僕は本業がデジタルゲームの仕事で、家庭用のゲームの開発が主なんですけど、1度ゲームセンター用のゲームを作る機会がありました。その時に知らない人が遊んでいるのを後ろから見て、それが凄く面白い体験で。家庭用のゲームを作っていると、知らない人が遊んでいるところを見れないんだな、と思ったんです。ボードゲームでも同じですね。さっきはボードゲームカフェでそんな現場を見れてましたけど、オープン会とかでも見れるかもしれないし。他にもツイッターで知らない人の感想を読んだり、それこそ海外の人の場合もあったりとか。そういうとき「よかった」って思います。
過去作で一番好きなのは何ですか?
難しいなぁ?(笑)一番はちょっと言えないですね。
よく出没するエリアはありますか?
秋葉原のイエローサブマリンさんですかね。以前は家の周りのオープン会によく行ってたんですけど、最近はちょっと忙しくてなかなか行けないです。最近はオープン会がすぐ定員いっぱいになっちゃうんですよ。なので「今日は空いたからいけるぞ!」って当日参加が難しくなっていて。それはすごく良いことだと思うんですけど。
好きなジャンルはなんですか?やっぱトリテですか?
そうですね(笑)トリックテイキングは好きですね。あと、ワーカープレイスメントも好きです。
プレーヤーとして気持ちがいい瞬間ってどんな時ですか?
トリテは、最初にカードを見て「こうかな?」って思ったのが上手く行ったり行かなかったり、ってのが楽しいです。考えたカードの出し方が上手くいけば「気持ちいい」ですね。
ワーカープレイスメントは配置のジレンマが楽しくて「気持ちいい」のは置きたいところに置けたらかな?ワーカープレイスメントに付き物の拡大再生産も「気持ちいい」ところですよね。RPGで言うレベルアップみたいなもので単純に嬉しいです。
そうゆうのって、自分の作品に生かされてたりしますか?
ルールの方ですよね?2作作ってみて…トリテしか作ってないんですが…2作目の方はある程度手札を見て指針を立てれるように作れたつもりですね。出来てると良いんだけどなーと思ってます。
オススメの本とか、勉強、情報収集とかはありますか?主にアートの方で
たまに息抜きでBGGを無作為に見に行きます。良いのがあると「良いボドゲアートフォルダ」に放り込みます(笑)行き詰まったときとか開けてみて「ああ、こうゆうやり方あるなぁ」とかそうゆうのは見ますね。あと、海外の雑貨のホームページとか見に行きます。色使いかわいいな、とか。
ボドゲ以外の趣味はありますか?
総合格闘技を見ますね(笑)
総合格闘技のゲームを作ったりされる予定はありますか?
切り離してますね。最初ボードゲームは遊びだったのですが、今は制作側でもあるので…でも格闘技は手を出せないですからね(笑)完全に受け身です。完全に受け身の趣味も必要だな、となんとなく思っています。
好きなゲームベスト3を教えてください。
テレストレーションです。自分の所有ボードゲームリストがあって、定期的にそのリストを弄り回すんです。そのたびに、今の感じだとコレは☆3つだなぁとか、お気に入り☆が増えたり減ったりするんですけどテレストレーションは不動の☆5つですね。
あと、最近遊んでいないんですけど「ブルゴーニュ」も好きですね。
あとはトリテになるんですが、トリテも良いのいっぱいありますから…う~ん…フリーゼの昔ので「Foppen」ってゲームですかね。ゲームが面白いのもあるんですけど、トリテ面白いなって初めて思ったのがFoppenなんです。それまで面白さがいまいち分からないけど、周りのゲーマーさん達が「トリテはいいもんだ」みたいに言うので…。「お酒の味を分かりたいから呑んでみる」みたいな感じで遊んでました(笑)で、いろいろ試してたんですけど、Foppenでトリテの「ここらへんを楽しんでいるんだな」みたいなのをやっとわかった気がしたので思い出深いんです(笑)
ちなみに、テレストレーション、長谷川さんみたいに
絵が上手い人がどのくらい楽しめてるのか気になってます。
テンデイズさんが日本語版を出したころ、オープン会に行くと僕が絵を描くのを知ってる人が「やりましょうやりましょう」と、よく誘ってくれました。でも「お上手なんでしょ?」みたいな空気が少しプレッシャーで(笑)「いや、いつも下書き無しで一発描きしてるわけでもないし、そもそも上手くないし;」って思ってました(笑)
それはそれとして、テレストレーションは絵が上手かったとしても文字を挟んでズレが生じるじゃないですか。そのズレが面白いですよね。アレ、多分絵だけで繋いでるとそんなに面白くないかもしれません。
話が変わりますけど、どんなお絵描きゲームも「あまり上手じゃない人をイジる」みたいなところがどうしてもあるじゃないですか。お絵かきゲームが苦手な方には「上手くないから皆の前で描くの恥ずかしい」って方もいると思うんですけど、僕がモグワイからリメイクさせてもらったぽんこつペイントは、上手い下手が面白さとあまり関係ない、珍しいタイプのお絵かきゲームだと思うんです。描いていいのは正円と直線だけですからね(笑)どうしようもない(笑)そこが凄いところだと思ってます。
アート面で尊敬されている方はいますか?
タンサンさんは同じ時期からゲムマに参加してますけど、ずっと「凄いな」と思ってます。ittenさんも、Saashiさんも。一緒にスカイプしながら絵を描いたりと仲良くしてるツクダさんも、いい絵描くなーって思います。沢山いますよね。お世辞ではなく。それは楽しいですが、悔しいこともいっぱいあります。
ittenさんと言えばゲムマ初出展でTOKYO HIGHWAYを出されて話題になって、そのすぐ後に自分達でエッセンにブースを構えてて…凄いなー。いろいろ情報を集めて、海外で出して…ってすごい大変だと思うんです。
(※長谷川登鯉さんとSaashi&Saashiさんが2015年にトークをされててすごく面白いです。こちら)
やられたと思った作品はありますか?(アートで)
最近強烈に記憶に残ったのがタンサンさんの「ルールの達人」です。あれはもう…凄いなと。いつも凄いんですけど。パッケージにタイトル無いんですよ?人数とか年齢とかも。でもちゃんと含まれてるんですねパッケージ絵の看板とかに。凄いですよ。先ず思いつかない。思いついてもやれない。そんなパッケージデザインを許可してしまうカワサキさんも凄いと思います。この新版が発売されたゲームマーケットって旧版ルールの達人が発売された年から数えて、10年目なんだそうです。その10年間で、遊んだ方も何人もいると思うんですけど…僕はボードゲームを初めて1年か2年のころに遊んだんですけど凄く難しかったんですよ。やることは少ないんですけど、しっかり考えることが多くて、難しいなぁと思って。それがこのアートで出て、即日完売するって。今時の難易度じゃないと思うんです。それが完売するってアートの力も大きいと思うんです。元々のルールの強度があって、カワサキさんの信頼もありますけど、これはもう凄い作品だなと。他人事ながら嬉しかったですね完売したよって聞いた時は。ここがボードゲームのアートの面白い所ですよね。ちゃんとゲームが面白ければ流行りの表現方法じゃなくったってアリで、手に取ってもらえるっていう。ゲームに噛み合ったアートなら尚良しで、ファンが評価してくれるっていうのが面白いなぁと思ってます。今のところ。
ちなみに直近のゲムマで「多すぎて選べない」と言われる件についていかがですか?
それだけ大きくなってるってことは良いとこですよね。同時にどうしても「目立ったもん勝ち」になっちゃって、それはちょっと嫌だなって思いますけど。だって目立ったもん勝ちになると資本力の差も出てきますよね?たぶん。遊んでから、どう面白かったのかとかその逆とかをツイートしてる方がいらっしゃいますけど、有り難いな、って思います。目立ってないけど有名になろうとしてないけど面白いシステムのゲーム作る人、作ろうとしてる人もいるので…。
(※長谷川登鯉さんは自身の運営されるポッドキャスト「ボォFC」にて、いろんなゲームの作者さんと対談されてらっしゃいます)
資本力の話が出ましたが、アートってそうゆう側面もありますよね?
目立つ目立たないってことであれば、そういう側面ありますね。
ただ僕の絵は売れる絵じゃない。デジタルゲーム、漫画、ラノベとかだと全然上手くいかない絵だと思うんですね。でも今のボードゲームなら僕の絵も許容してくれると感じてて。ボードゲームは広まっていく過程で自分の絵は使ってもらえなくなる日が来るかもな~?と、前から思ってます。
ルール含めて、サークルさんで注目されている方はいますか?
名前を出さなかった人は注目してないのか?って思われそうで嫌なんですけど、ホントいっぱいいるので言い忘れるかもしれませんが…。今まで一緒にやった人達も凄い人ばっかりで、それぞれの良さがあって。例えばワンドローさんは一緒にやってやっぱ凄いなーって思ったし、パワーナインさんも仲良くしてるから面と向かって言わないけど尊敬しています。上杉さんも凄いですよね。勉強させてもらいました。梟老堂さんはルールはもちろんアートディレクションも上手いです。あと常時さんヤバいですね。操られ人形館さんのゲームはいつも完成度が高いんですけど、あの人、ゲームが強い。めちゃくちゃ強いですよ。ゲームをパッと見た時の、構造の理解がホントに早くて…理解したらもう嫌な事しかしてこない(笑)だから作るゲームもそういう感じですね。スイーツスタックも面白いし、暗黒議会が特に好きです。林さんもやっぱ凄いですよね。年に何作も新作を出せて、いろんなジャンルのゲームを作ってるのに全部ちゃんとしてる。
あとはHOY GAMESさん、ワンモアゲーム!さん、桜遊庵さん、ハレルヤロックボーイさん、遊星ゲームズさん、ゆるあ〜とさん。かぼへるさん。キリがないです(笑)きっと言い忘れてる(笑)他にも表向きは言ってないけど専業でやってる人も知っているし、海外で売れる人もいる。何個売れたとか、数字言うと生々しくて伝わりやすいけど、数字言わないだけで…凄いーって人います。なんで言わないの?って思うんだけど(笑)あんま気にしてないんでしょうね。
(※上記に上がった他にも、長谷川登鯉さんが好きなゲームデザイナーさんがインタビュー後半に出来てきます)
これからゲーム作り始める人へ伝えたいことはありますか?
僕が言うのも変ですけど、経験のある人達に聞いてみるの良いと思うんです。どうしても近しい人と仲良くなりがちですけど。
僕が初めた頃は同期という感覚の人がほとんどいなかったので…というか界隈が小さすぎたので、知り合って話をしてみるともう凄いキャリアの人でした!とい出会いが何度もあったんです。やっぱり経験で知ってることはあって、でもケース・バイ・ケースなので、まとめられないというか一言で言えないんですよ。「こうなったんだけど、どう思いますか?」って聞けば「自分の場合はこうした」っていうのをケースに合わせて言えるのが経験ですよね。ゲームマーケットも流れが早いから、1年前に「こうすると良いよ」って言ってた事が、全て通じるかっていうとそうではないですよね。そこらへん見分けは難しいけどそこも経験ですかね。
別に作ってる人じゃなくても、沢山遊んでる人とか、強い人とか、いろんな人と仲良くなって、いろんなゲームを遊ぶと良いと思います。本当にいろんなジャンルがあっていろんなシステムがあるので。
何が面白いか、何が面白くないのかに基準はありますか?
未だにわかんないんです。ゲームとして動けば面白いかっていうと、そうゆうわけでも無くて。
面白いじゃなくて、嬉しいの話かもしれませんが、8bitMockUpを作って「こうゆう楽しさもあるんだなー!」って気がつきました。ゲーマーには物足りないだろうとも思うんですけど。
8bitMockUpって、勝ったか負けたかは置いといて「いい感じの世界が出来た!」って嬉しいじゃないですか?嬉しい瞬間をずーっと提供するっていうのが8bitMockUpにはあると思うんです。テストプレイをした時に、さとーさんはカルカソンヌに似ていることを懸念してました。僕はTake it Easy!みたいだなぁ、と思いながらテストプレイをしたんですけど、単純に「やってる時間が楽しいからいいや!」って思ったんです。テストプレイ最初期はもう少しタイル枚数が多くて、「タイル減らせませんか?もうちょっと短い時間で終わっても良くないです?」ってさとーさんに言ったの覚えてます。そうすれば何回も遊べるから。
今回のハピエストタウンも、僕は同じことを念頭に作りました。僕が高見さんにイラストを頼んだのは、さとーさんがイメージしているターゲット層が建てたくなる建物の絵を描いてもらえる、と思ったからです。欲しい建物があって、必要なお金が足りて買えて、自分の場に置けた。っていう嬉しさ。予定どおりスキー場の横に温泉を置いた!みたいな嬉しさですね。
わかりやすい、っていうのは最善手が見えちゃうってことかもしれないけど、同時に見通しが良いから何をやれば良いかがわかる、という事だと思うので、遊びやすいですよね。そこに嬉しい瞬間を無理なく沢山用意して…なんでこんな話になったんでしたっけ?だいぶズレちゃいましたね(笑
いえいえ!このままお願いします!
楽しさなら…ハプニングカードをめちゃくちゃ入れて予想外のことが起きて、ドっ!てなる瞬間がある、そういうのも、それはそれで楽しいです。でもなぁ…。
ドイツゲームを始めたころに遊んだヘキセンレンネンっていうゲームが凄く印象に残ってて。絵本のようなタッチの絵のすごろくゲームで、すごろくやさんでアート買いしたんですけど、遊んでみて「すごろく進化させてる!」と驚いたんです。日本のすごろくって、ずっとすごろくで、違いは使われてるキャラクターだけっていうのが僕の印象でした。でも「ドイツゲームはすごろくのシステムを進化させてる!凄いことになってる!」という驚き。ヘキセンレンネン、あとブクブクが僕のボードゲームの入り口でした。なんだか面白い事やってるなー!と思ってのめり込んだんです。そのせいか、ドイツゲーム的なのが個人的には好きです。憧れます。
僕は「アートが楽しげなゲーム」を遊べると楽しくなるのですが、長谷川登鯉さんの絵にはそういった遊び心のある絵がすごく多いと思っています。8bitMockUpのタイルに小ネタを見つけたときに、なんだかうれしくなったり、みんなでポンコツペイントのパッケージにも人の手の他にロボや猫?が描かれていて、「みんなって広っ!」とやる前から楽しくなってきます。インタビュー前半ではそんなアートを描かれる長谷川登鯉さんの人間性が垣間見えた気がします。
後半はボードゲームの制作過程について、時系列でお話しいただきます。ゲームマーケットで話題になった作品や、権利の話、テストプレイや広報について、共同制作の多い長谷川登鯉さんの経験談や考え方をお聞かせいただきました。アートを誰かに依頼してみようかな?でもどうやって頼めば良いんだろう?と考えている人にはとても参考になると思います。明日公開予定です。お楽しみに!
余談ですが、どこからがゲームでどこからがゲームじゃなのか?については文中にも登場したタンサンファブリークさんやittenさんも参加される「これはゲームなのか?」展が2018.5/29〜6/3に開催されますね。みなさん突き詰めてみたいテーマということなのでしょうか。こちらも楽しみですね!